この百足伝の四十首の道歌は自鏡流祖多賀自鏡軒盛政が、門人を指導する毎に人体の差別をみて、指南した口授である。人に大小長短養老貧富の差別あるゆえ故指導者はこの点に気を配り、その人に応じて指導すべきで、決して劃一的に指導すべきではない。指導者の心得るべき事である。
百足とは「ムカデ」のことである。百足は歩くのに此の数多い足をからませる事なく、緩急自在に運んでいる。これ無意無識なるが故である。居合を行うに当たっても之と同様で刀に気をとられ、手や足に気をとられては充分な動作は出来難い。無意識の状態に入ってこそ真の居合が出来るので、この境地へ迄行くのが修行である。
中川申一著:無外流居合兵道解説
*自鏡流とは無外流居合の元となった居合を主とした流派である。