居想無外流居合いの「向抜」での仮想敵は前後にある。
後ろの敵もただ待っていてはくれまい。前の敵を斬る動きの中にも、後ろの敵を意識した動作としたい。
後ろの敵を素早く切る為に必要な要素は、脱力である。
前の敵を斬った体は相手の額に向け大きな力が込められているが、これを次の瞬間には一瞬で脱力し後方への敵に対応する動きに転換する。
両拳は正中線から左に出ること無く、また剣先も同様のラインを描くことが理想である。拳、肘、肩に力が入っていれば、拳も剣先も大きく暴れだして遠回りをしてしまうに違いない。
「向抜」は夢想返しの座技版でもあるので、上半身の注意点は共通している。ただ立技と違って膝の抜きが使えないので下半身の動きに制約が生じる分、工夫が必要とされる。
無外流居合は多賀自鏡軒盛政の興した自鏡流居合が元となっている。この自鏡流居合には「向抜」と言う形があるが、理合も動きも連そのものである。特に理合は居想会のそれと一致している。
古武道としての居合いを知れば知るほど、無駄が無く理にかなった動きがそこにあり、新鮮な驚きに満たされる。時代によって捨て去られたりしたものは、その時代の人に不用となったものなのであろうが、現代のわたしたちにとってそれが不用であるとは限らない。